インタビュー
受け継がれてきたものを、次の世代へ — お寺ステイ 加藤明仁さん
なくなりかけたお寺に、世界から人が泊まりに来る。失われかけた価値が、新しい価値に変わる。

秋田の祭りに毎年通い、元・救急救命士として命の儚さに向き合ってきた加藤明仁さん。いまは、なくなりかけたお寺を、世界から人が泊まりに来る場所に変えて、次の世代へ渡そうとしています。
祭りが、自分の根っこをつくった
── 秋田のご出身ですね。子どものころ、お寺は身近でしたか。
そんなに身近ではなかったと思っていました。とはいえ、人生の節目や行事があれば、お寺にも神社にも行く機会がありました。そう考えると、自分では意識していなかっただけで、身近だったのかもしれません。
── 秋田は、加藤さんにとってどんな所でしたか。
お祭りが盛んな土地です。お祭りのために一年かけて準備する、そういう熱を持った人がたくさんいる。伝統文化や、過去から受け継がれてきた生きたものを大事にする気持ちが強い地域だったなと、いまになって思います。
僕も地元のお祭りが大好きで、毎年参加していて、いまも続けています。参加するうちに、こんな素晴らしいものが、なぜ行われてきたのか、なぜいまも続いているのかに興味がわいてきました。受け継がれてきた伝統文化や人形づくり、どんな儀式をしていくのか。それがこれだけ長く続いているなんて、すごいなと。
秋田は、いまの自分の根幹の部分をつくってくれたのかなと思います。
命は儚い、と教わった12年
── 消防士・救急救命士として12年。その経験は、いまの仕事にどうつながっていますか。
仕事の中身が直接つながっているかというと、つながってはいないんです。ただ、自分の精神性や、仕事への向き合い方は、あの12年がつくってくれました。
人間は永遠に生きられる存在ではない。儚い存在なんだと、仕事を通じて思い知らされました。現場に行けば、目の前で命が失われる場面にも出会いますし、なんで急にこんなことに、という家族の悲しい場面もあります。
人はいつ何が起きるか分からない。だから一生懸命生きなきゃいけない。当たり前に家族と過ごしている時間も、本当は当たり前じゃなくて特別なことなんだ。いま一生懸命に生きよう、仕事にしっかり向き合おう。そういうことを教えてくれたのが、消防の12年間でした。

声をかけられて、お寺の仕事へ
── そこから、なぜお寺の仕事だったのですか。
もともと、お寺の事業で起業しようとはまったく考えていませんでした。僕の仕事や状況をよく分かってくださっている方から、お寺の事業があるんだけど、手伝ってもらえませんか、と声をかけてもらったのがきっかけです。
ただ、僕ももともと、お寺や神社にお参りするのがすごく好きなんです。旅行に行けば、旅先の神社にお参りする。朝ランニングをして神社に行って、階段に座って瞑想する。精神性を大事にすることには、ずっと関心がありました。
お寺や神社が、次の世代にも受け継がれていくための仕組みをつくれる。その仕事に携われるんじゃないか、と思って、参画させていただきました。
時を越えて大切にされてきた場所で、縁をつないでいく。日本には、歴史ある建物や自然がたくさんあって、それは祖先からの贈り物です。いいものは次に残していきたい。でも、それが失われつつある時代です。だから、次に渡す担い手と仕組みが要るんだと思っています。
失われる価値を、新しい価値に
── 空き寺が増えると、地域から何が失われると感じますか。
住職のいない空き寺は、全国に2万以上あると言われます。空き寺が増えるのは、やっぱり悲しいことです。その地域にとって、お寺には価値があったはずなのに、それが失われていってしまう。
それが何かの仕組みで続いていって、いまの時代の新しい価値に変わり、地域のためになっていく。そういう仕組みをつくれたら、すごくいいなと思っています。
── お寺に泊まれるようにして、変化が生まれた例はありますか。
なくなる寸前だったお寺が、残ることになったんです。そこに海外の方が泊まりに来てくれるようになって、その地域の魅力を世界に伝える一端を担うことができた。すごく良かったなと思います。
価値が失われかけていた所が、また新しい価値を生み出して、そこで大きな喜びや幸せが生まれる。すごくいいことだなと感じました。
── 泊まりに来るのは、どんな方ですか。
お客様の9割は、欧米やオーストラリアからの方です。坐禅、お祈りへの参加、写経、精進料理、住職さんとのお話。泊まることは器で、来てもらう理由は、お寺という場での体験なんです。
檀家さんや地域と、時間をかけて向き合う
── お寺を宿泊の場にするとき、檀家さんや地域の方とはどう向き合っていますか。
お寺にもいろいろあります。檀家さんがいないお寺なら、住職の方がやりたいということであれば、一緒にやらせていただく形がとれます。
檀家さんがいるお寺だと、やはり檀家さんの許可が要りますから、時間をかけていろいろと調整させていただく形になると思います。お寺は、株式会社に似ているんです。檀家さんという株主がいて、決定権を持っている。許可をもらうのに数年、十年かかることもある世界です。
檀家さんのいるお寺のサポートもさせていただいています。
いまは、エリアを絞って進めています。もともと宿坊をやっていたけれど、集客がうまくいっていないお寺には、インターネットでの集客で力を貸す。そういう入り方もあると思っています。
高山で、地域のおすすめを手渡す
── いま、どんな所にお寺ステイがありますか。
全国に10拠点あります。いちばん大きいのが岐阜県高山市の高山善光寺で、僧侶の方を社員として採用して、体験を提供してもらっています。
── 高山では、地域のお店とはどう関わっていますか。
現場で、地域のお店の方と交流して、情報交換をさせてもらっている、という話を聞いています。
お客様に聞かれたら、ここならここに行くのがおすすめですよ、とこちらから情報をお渡しする。それが地域の活性化につながって、地域で頑張っている方たちのためになっているのかな、と感じています。
邪念のない場所で、暮らしてみる
── 拠点を増やすうえで、いちばん必要なものは何ですか。
人です。拠点が増えると、住み込みで働いてくれるオペレーターの方がどうしても必要になります。地方で、面白い仕掛けをやりたいという方に来てほしい。
お問い合わせへの返信は、AI エージェントに任せています。全拠点の情報とこれまでのやりとりを読み込ませて、自動で返す。新しく分かったことはまた足されていくので、質問そのものが減っていきます。
── 住み込みで働く人には、どんな暮らしが待っていると思いますか。
お寺という存在が、すごく身近になると思います。だらけた生活とは無縁の場所ですから、規則正しい生活になりますし、作法も身についていくでしょうし、考え方にも芯が通ってくる。メリハリのある生活になるんじゃないかと思います。
それに、邪念のない場所なので、自分にとって本当に大事なこと、人生で大切にしていかなきゃいけないことは何かを考える時間がとれる気がします。研ぎ澄まされた、とても大切な時間が待っているんじゃないかと。
あとは、英語も強くなりそうですよね。英会話をしたい、勉強したいという人なら、毎日お客様と英語で話すきっかけがある場所です。実践でアウトプットしていけると思います。

秋田でも、いつかは
── ふるさとの秋田でも、お寺ステイはできると思いますか。
いずれはできると思います。秋田にもいろいろなお寺がありますから、興味を持ってくださるお寺があれば、秋田でもやっていけたらうれしいです。とはいえ、まだまだ優先順位があるので、いますぐは難しいと思っています。
お寺ステイはすごくいいもので、続けていけばお寺がより良い形になっていく。それを皆さんに知ってもらって、海外の方に、日本に来たらお寺に泊まるのがいけてるよね、と思ってもらえたらいい。日本には、お寿司、天ぷら、芸者のように、世界的に知られる文化の代名詞があります。その一角に「お寺ステイ」が入ったらうれしいです。それが浸透していったら、その頃には秋田でもお寺ステイができるんじゃないかと思っています。
AI に作れないものを、残していく
── お寺に関わってみたいと考えている読者に、伝えたいことはありますか。
そのお寺がお寺ステイに向いているかどうかは、いろいろ情報がないと分かりません。たとえば、海外の観光客がたくさん来ている地域で、交通のアクセスがいい場所。そういう所でお寺ステイをやりたいというのであれば、すごく相性がいいと思います。
拠点になりそうなお寺や古民家の情報をお持ちの方、地方で働いてみたい方は、まずはご連絡ください。何かお力になれることがあるかもしれません。
AI に作れないものは、歴史や、実際に現場で積み重ねてきたものだ、と何かで読んだことがあります。お寺は、まさに AI に作れないものです。長く受け継がれてきたものを、これからも次の世代へ残していきたいと思っています。
BASH 編集部コメント
空き寺は、空き家と同じく「使われなくなった地域の資産」です。違うのは、檀家という意思決定の仕組みがあり、合意に長い時間がかかること。加藤さんたちは、檀家さんのいるお寺のサポートも行っています。海外からの宿泊を、お寺を残す力に変える試みは、古民家再生や関係人口づくりのしくみと重なります。
拠点を支えるのは、住み込みで働く人です。地方で働いてみたい人にとって、お寺は暮らしと学びの場にもなりえます。地域おこし協力隊や二地域居住のしくみと組み合わせられる余地もありそうです。