インタビュー

誘われて来た町で、今度は誘う側に — ガイアックス 上田祐司さんと葉山の食卓

食卓に誘うと、人がつながる。小さな頼みごとに「それぐらいいいっすよ」と言い合える町になる。

誘われて来た町で、今度は誘う側に — ガイアックス 上田祐司さんと葉山の食卓
夕暮れの葉山の棚田

2020年、ガイアックスの上田祐司さんは「一緒に住みませんか」という誘いで葉山へ移りました。いまは上田さんが、来た人をどんどん食卓に誘っています。

「一緒に住みませんか」

── 葉山に来たきっかけは。

コロナの最中に、ETIC.(エティック)の創業者の宮城治男さんから声をかけてもらったんです。都内で一人で暮らしているのはいまひとつだから、海が見えるところで生活したい。でも一人暮らしだと、いい物件があまりない。それで「一緒に住みませんか」と。

僕はそのころ、都心の、オフィスまで歩いて5分の所に住んでいました。便利ですけど、家賃が高すぎる。どこかへ移るなら、本当は宮崎や四国、しまなみ海道あたりまで行きたかった。でも、いろいろな関係があって、都会に近い葉山にしました。

来てみたら、山は見えるわ海は見えるわで、幸せな環境でした。やっぱり海が近いのはいい。

住む場所と、働く場所がほどけた

── 暮らしや仕事は、どう変わりましたか。

仕事がオンラインになったので、移住が現実に考えられるようになったんです。ガイアックスのメンバーも、どんどん出ていきました。みんな四方八方に散りまくっている。葉山でも「最後の一個の物件です」と言われるくらい、都心から人が動いていました。

僕自身も、葉山に拠点を置きながら、那須高原の森で過ごしたり、山梨の身延山のお寺で瞑想したりして、その合間に仕事をしていました。人と会うのは東京に出る日にまとめて、ほかはオンライン。一か所に住んで毎日同じオフィスに通う、というのが当たり前じゃなくなった。2020年には、この流れはコロナが落ち着いても基本的には止まらない、と話しました。いまもそう思っています。

ほぼ毎日、夕食を囲む

── 地域の人とは、どう知り合っていったのですか。

知り合いだったり、知り合いの知り合いだったり。ご近所さんからも、いろいろ声をかけてもらいました。シェアハウス兼ゲストハウスの家を作ったので、リビングでみんなで、ほぼ毎日夕食を囲むんです。そこで関係性がどんどん増えていきました。

家は、住む人と泊まる人と、ふらっと来る人が混ざる場所です。全国を移りながら暮らしている人も泊まりに来ます。

住む人を決めるときも、向上心がある、起業志望、といった条件は必須じゃないんです。大事なのは、一緒に住めるかどうか。だから始めたころは、入る前に2〜3泊、無料で泊まりに来てもらっていました。

もてなしは、期待しないで

── 家には、どんな人が集まりますか。

いちばん多いのは、ガイアックスのメンバーや投資先の人たちの合宿です。チームのオフサイトや、起業家の集まり、大学のゼミ、業界団体の合宿にも使ってもらっています。5部屋あって、床で寝るなら布団はいくらでもあるので、10人くらいまでなら泊まれます。2022年には「Open Day」という日も何度か開きました。

最初に言うのは、もてなしは期待しないで、ということ。超・適当で、かなりセルフで回してもらいます。その代わり、晴れたら屋上でバーベキューをして、近くの海でシュノーケリングをして、山に登る。天気を見て、その日にできる遊びをする。24人くらい集まったカレーの会のあとは、料理の種類も買い出しの手間も減らして、みんなでセルフで回せる形に直しました。

ここで出会った人同士が、次の仕事や研究につながることもあります。ここでの滞在が人生のターニングポイントだったと言ってくれた人が、あとで自分の仲間を連れて、運営を手伝いに戻ってきてくれたこともありました。誘われて来た人が、今度は誰かを連れてくる。うれしい瞬間です。

食卓から、海辺のサウナへ

── 食卓から生まれたものはありますか。

サウナがそうです。知り合いが、テントサウナをやっている人をうちの食卓に連れてきてくれて。話しているうちに、サウナって結構いいな、となった。いまは葉山の海岸で古くからボートをやっている、一色ボートのジュンタさんと一緒に、海沿いでサウナのサービスをしています。

僕はコーディネートぐらいしかしていなくて、オペレーションはみんながやってくれています。これも知り合いの知り合いが多い。サウナだったら手伝いたいとか、長い時間は働けないけど少しの時間なら働きたい、という人が増えてきました。そういう人の居場所ができたのも、うれしいことです。

駅前のバーを、みんなで持つ

── 食卓のほかにも、人が集まる場はありますか。

逗子の駅前に、地域の人同士でお金を出し合ってバーを作っています。DAO 的に運営していて、出資した人はみんな議決権を持っている。株主総会やそれ以外の集まりもたくさんあって、そこに自由に来てもらって、感じたことや、やりたいことを持ち込んでもらう。

このバーの仲間から、新しいビジネスがたくさん生まれています。みんなで全国に視察に行ったり、みんなでお金を出し合っておむすびの店を作ったり、協力し合って焼き鳥の店を作ったり。みんなが支えて、新しいバーもできました。新しく入ったワイン好きのメンバーがワインバーを始めたりもして、そちらの店にも DAO のみんなで行ったりしています。だれかの「やりたい」に、みんなが少しずつお金と手を出す。それが当たり前になっています。

「豊か」には二つある

── 葉山で暮らして、考え方は変わりましたか。

いろいろなものをシェアしていったほうが、生活は豊かになる。その「豊か」にも二種類あると思うようになりました。一つは、幸せをたくさん感じられること。もう一つは、物理的に効率的になることです。

子どもを預かったり、預けたり。「ちょっと駐車場に停めさせてもらっていいですか」と聞いたり、逆に聞かれたり。「こういう会で、この場所を使いたいんですけど」とか。そういう貸し借りが、葉山中に増えてきています。貸し借りといってもギブ・アンド・テイクじゃなくて、ほとんどが「それぐらいいいっすよ」で終わる話です。本当に、町が良くなったなと思います。

新しく来た人は、まず食卓へ

── その輪に、新しく来た人はどう入ればいいでしょう。

やっぱり食卓を囲むことが大事なので、どんどん誘っています。誘ってみると、こういうのが好きな人かどうかも分かる。好きそうなら、逗子のバーにも参加してみるか聞いてみる。関わってくれたら、どんどん巻き込みます。

宿も、町の一軒として

── 葉山の宿の運営にも関わっていますね。

葉山で民泊を運営している attaka と組んで、宿を回しています。宿は、空き家の再生と宿のブランド「Roopt」を全国でやっている石巻の巻組のシステムで運用しています。巻組はガイアックスの投資先なので、投資先の経営をより深くつかめるし、一緒になってシステムのブラッシュアップもしています。

大事にしているのは、お客さんが実際に見る場所に情報を置くこと。ホームページはどうせ誰も見ないので、予約サイトに載せないと意味がない。冬の平日が空くなら、ADDress に出してもいい。清掃を始めるときは家の様子を5分以内の動画で撮って共有する、部屋には紙のマニュアルを置く。小さな決まりですけど、人が入れ替わっても同じ質で回るようにするためです。

いま力を入れているのは、宿の運営をできるだけ人の手を介さずに回すことです。運営会社が毎日こなしている19の業務を洗い出して、AI エージェントに一つずつ引き継いでいます。人が手で繰り返している作業は、まず仕組みに渡せないかを考える。いまも清掃は人がやっていますし、込み入った相談には現場のスタッフが電話をかけています。

町との付き合いも大事にしています。宿でも町内会に入るか聞かれたら、もちろん入る。町の人が企画する催しで場所を使いたいと言われて、町民向けに半額で受けたこともあります。葉山芸術祭で家を会場に使ってもらうときも、一日ごとの損得じゃなくて、年間の収支で合わせればいい、という目線です。

棚田で、地域の人と話す

── 宿に泊まる以外の体験もあるのですか。

棚田の近くの宿では、棚田の散策や農作業の体験を予約できます。5〜6月は田植え、9〜10月は稲刈り、畑仕事は一年中。泊まった人から、棚田を歩いていて地域の人と話せたのがよかった、という感想をもらうと、やってよかったと思います。泊まる場所を、町に入る入口にしたいんです。

竹林を、世界の98人と持つ

── 竹林の取り組みについて教えてください。

葉山の里山に、約7,000㎡の竹林と築80年ほどの母屋があります。敷地には蔵があって、奥には戦時中の防空壕も残っている。都心から1時間ほどの場所です。ここを、歴史ある建物を小口の出資で共同所有する PlanetDAO の案件として、23か国の98人の共同オーナーで持つ形になりました。2025年4月に取得して、大事なことは共同オーナーの投票で決めます。PlanetDAO はガイアックスが手がけているしくみで、葉山のチームは、現地で運営をサポートする立場です。

竹林は放っておくと、周りの木を日陰にして枯らすし、根が浅いので斜面も崩れやすくなる。だから立ち入り禁止にして守るんじゃなくて、切って、割って、燃やして、また生やす。それを人が来て体験できる形にして、手入れが続くようにする。「竹林を、使って残す」です。

早い時期に始めた体験が、タケノコ掘りです。竹林には水道もトイレも電源もない。子ども連れにはスコップを使ってもらう、掘った穴は埋め戻す、急な斜面には近づかない。2026年の春は、準備と片付けを入れて2時間、1回10人ほどの枠にして、掘ったタケノコは持ち帰ってもらいました。集合場所や駐車の写真をまとめた「たけのこ狩りマニュアル」は、いまは宿の案内のお手本にもなっています。案内は、100人が100人間違えないものに、とよく話しています。

判断に迷ったら、母屋の改修より、地域の人への対応を先にします。近所への挨拶の手紙を配ったり、地元の方に竹を提供して、流しそうめんに使ってもらったり。

葉山で試したことを、ほかの地域へ

── 葉山での経験は、ほかの地域にどうつながっていますか。

葉山では、いくつかのしくみを同時に試しています。竹林のような共同所有の PlanetDAO は、那智勝浦のお寺から始まって、佐渡や倉敷、大和郡山へと広がり、2026年9月の時点で23か国の289人が共同オーナーになっています。奥葉山の空き家を DIY で直す地域の DAO では、お金ではなく作業に参加した人にトークンを配る設計を試しました。宿の運営の自動化も、まず葉山で試して、うまくいったら巻組にも戻したいと考えています。

どれも、外の人が地域に関わる入口をつくる試みです。住んでいなくても、投票や報告で竹林と関わり続けている海外の共同オーナーもいる。関わり方は、住むか住まないかの二択じゃないんです。

誘われた人が、誘う人になる

── これからの葉山に、何を望みますか。

2020年に、100年に一度くらいの、地方を盛り上げるチャンスだと話しました。その気持ちはいまも変わりません。地方を盛り上げようという僕らが、この流れを止めちゃだめなんだと思います。

僕は「一緒に住みませんか」と誘われて、葉山に来ました。いまは僕が、来た人を食卓に誘っている。誘われた人が、次の人を誘う。それが続けば、地域に入るのに大きな計画はいらないと思っています。まずは、だれかを夕食に誘ってみてください。

BASH 編集部コメント

地域に人を呼ぶ話は、移住の制度や拠点づくりから語られがちです。上田さんの話の起点は、一人の「一緒に住みませんか」と、ほぼ毎晩の夕食でした。食卓での出会いがサウナを生み、出資し合うバーから店が生まれ、竹林は世界の98人で持つ場所になった。関わり方の大きさを自分で選べる入口が、いくつも用意されていることが、葉山の強さに見えます。

関係人口、二地域居住、地域DAO、民泊。BASH で紹介しているしくみも、入口にはこうした小さな誘いがあります。しくみを使うときは、最初の一回の夕食をどう用意するかから考えてみてはどうでしょうか。

取材: 乃亜 2026年10月